SWというのに仕事の都合で一泊だけ、家族で白浜へ旅行に行って来た。
相変わらず阪和道は海南以南がずっと渋滞、片側一車線しかない、行楽時期は慢性的に混雑する、車線が半分なのに所要時間は二倍どころか十倍以上。なにか悪くなりだすと加速度的に悪影響がひろがるということか?
ところで、その日に泊まったのが一泊一万円の宿。
一万円といっても一人あたりではない、家族全員で一万円だ。
素泊まりなのだがYHよりも安い。ほとんどセルフサービスだがすいていた。なにせこの五連休の初日だというのに宿泊客が私の家族だけ。
地元紙によれば白浜の旅館組合の宿泊は最終日を除き加盟旅館すべて満席だというのにだ。宿帳を見ればこの夏休み7/19以降私たちで15組目。逆に安さ云々というよりも五連休の繁忙期でも泊まれるところがあってありがたかったというのが正直なところ。よそも当たったがすべて「満室」だった。
http://mahoroba8010.com/guesthouse2.html
そんなことでやっていけるのか?と思ったが施設は古いものの困るレベルではない。リネンにはマジックで東海BKとある。
ここは銀行の保養所だったところで、場所も海から遠いが丘の上、景色は良いが中途半端な場所にある。それが合併と資産リストラで介護付きの老人ホーム施設の用途に売却されるが部屋は余りまくり。
だから部屋だけは無駄に余っているから格安で貸せるのでこういうビジネスモデル(ビジネスとはいえないレベルだけど)になったということだ。
よく考えてみれば、食事もないからトータルで考えれば湯快リゾートみたいな破綻再生型の、最新のシステム運営でコストダウンした格安だがまともな宿泊施設と比べて数千円しか違わない。湯快は7800円で365日同一料金、朝食も夕食もついてというのはかなり魅力だ。
このご時勢に、というかこのご時勢だからこそ健闘しているし、実際繁盛している。
逆に私が泊まったこのような、余剰施設を使った片手間の激安宿泊施設も存在する。
サービスは一切なし、たまたま六畳で家族四人だが、これが六人、七人、と泊まったら一人当たりの料金はもっと安くなる。お風呂は古いがそこそこ大きく、天然温泉が引かれていて掛け流しだ。一週間泊まったら違いも大きい。毎朝毎夕バイキングも飽きるだろうし、かならずしも温泉地の全宿泊需要が一泊を基本とする従来の温泉旅館利用の形態とも限らないだろう。白浜なら夏休みに一週間ほど滞在して子供と海で毎日遊んだりのんびりできる。
少なくとも最低限泊まるという機能が、従来では考えられない価格で実現する施設が存在し、今後続々と増えることはあれ減ることはないだろう。
さて、である。そんな安物の宿があるからなんだというのだ、と思う旅館経営者も多いと思うが、ちょっと考えて欲しい。
何を考えて欲しいかというと、あなたの施設は宿泊客にどういう価値を提供して喜んでもらっているのか?ということをだ。
もし、他に泊まれるところがないから仕方なくと選択されているのであればコモディティ(市場でお金を出せばいくらでも手に入る、原材料といった一次産品)と同じだ、他と比べてましそうだからなんとなく、でリピーターも付かないのであれば、負け組入り決定ではないだろうか?
白浜という伝統的な温泉リゾート地であっても、いやそういうところだから企業の保養所くずれの施設がこれからもどんどんでてくるだろう。それらは天然温泉まで付いてとりあえず宿泊するという価値を提供している。
言い換えればただ泊まれさえすればよいという価値(満足度に見合った消費者が許容できる価格水準)は、高い温泉旅館やせいぜい民宿しか周囲にない時代にくらべてどんどん相対的に下がってくるのだ。
食事は外で済ませればよいのだから、低品質なつまらないサービス内容やお仕着せの食事内容での一泊二食付きを強制されることを不満に思い今まで仕方なく利用していたような客層は、金額に満足度が見合わない「余計な」サービスに無駄金を使うよりはとこういう宿泊機能だけを提供する激安ゲストハウスにかなりの数が流れるのではないだろうか?
では一方でその対極として限りなく高級化し、気の利いた仲居に高い人件費を投入してフルサービスを追及すればよいかといえば、それもブランド化に成功した一部の勝ち組のみがwiners take allとなるだろう。時間に余裕のある富裕層を中心に平日でも客足が絶えないそういう最高峰のサービス志向の旅館はひとつの温泉郷にひとつかふたつ、それ以外の施設は土曜日しか埋まらない過去とおなじ平凡な温泉旅館になるに違いない。
サービスにしろ料理にしろ、競合他社に打ち勝ってトップになるには並大抵の企業努力や体力では無理で、一工夫も二工夫も、業界の常識を覆す大胆な手法や戦略も取り入れ、前例の無い独自の価値を創造して顧客に提供していかないととうてい無理。
そして折角開発した前例の無い独自価値も、中途半端な小手先ノウハウに留まればすぐに真似されて相対的価値はどんどん下がっていく。後発の大資本の競合相手に、折角苦労して開発したノウハウだけ上手にパクられ再び体力競争にもって行かれる、いわゆるマネシタ電器されてしまうのが落ちである。
恒常的に常に最新最高のサービスを提供していく「企業体質」を仕組みとして構築しないと安心できないがこのご時勢だ。
安易に経営セミナーとかベンチマーキングでよそのノウハウをパクれば済むような世界ではないことだけは確かだ。なぜならば業界紙のみならず一般ビジネス誌で取り上げられるぐらい画期的な「成功の要因」"key success factor"でないと顧客はその価値を認めないからである。そしてそれを生み出す「企業体質」が備わらないと企業自体に対する顧客支持は得られない。パクっていいのは絶対圧倒的な資本をもったリーダー企業に限られる。だがこの業界にリーダー的存在の旅館は存在しないし(地域の温泉郷という地域の限定的な市場においては特にだ)、少なくとも個人経営のレベルではない。
また、安さと高品質をバランスさせればよいのか? 言うのは簡単だろうがそのバランスポイントが分からない。よその真似をするしか能が無い経営素人にはどだい無理な話である。
湯快リゾートみたいなオペレーションノウハウを個人経営の旅館で実現するのは難しい。 365日同じ料金でなんて、「そんなの旅館の商売じゃない」とかなんとか言って頭の古い院政しいてるような老人が反対するか、現場もろくに知らない若旦那(経営環境や顧客のニーズも冷静に判断できない)が中途半端な戦略やマーケティングのまま、周囲の意見も聞かずに暴走して、変に道楽に走っただけの形になって自滅するかだ。
営業業暦は長いが経営戦略の素人故に自己革新ができずに新興大手資本に食い散らかされるのがこの業界であり、これは日本料理の世界にもいえること。長年の経験でそのオペレーションの戦術ノウハウはすばらしいが、環境変化や顧客の要求の変化に対してきちんと対応して自ら戦略的に企業体質を変革できない。戦略転換には思い切りが必要だが、過去に引きずられてなかなかそれが大胆に変換できない。
激安ゲストハウスの登場でさらに宿泊機能の価値(満足度に見合った消費者が許容できる価格水準)が相対的に下落し、今後はさらにその傾向に拍車がかかってくるだろうというのが今回の旅行で感じたことだ。ここがあまり知られていないことが他の施設にとって幸いなだけかもしれない。サービスで差別化を図るにも、その図るべきサービスとは何か?自社が顧客に提供できる価値は何が強みで何が弱みか? これからの旅館経営者はさらに苦しい思索と決断を迫られるだろう。
きちんとわかった上で消費者行動まで予測して経営戦略をゼロから見直す、経営雑誌なども枝葉末節のノウハウをパクるのではなく、その経営者がどのような経緯と材料をもとにその決断に至ったのか?を重視して読む。いずれにせよ小手先の戦術ではなく、顧客提供価値の本質を深く吟味した上での戦略で勝負しないと旅館業界での生き残りは難しい。